えー、全然できてないじゃん。なんで!? 声にこそ出さなかったが頭の中では絶叫しながら幽体離脱した私が、地上に残した自分を空から俯瞰し、小さくなった自分が空に向かって絶叫しているのを見ている。そんな絵が思い浮かんだ。現実に戻って実際の私は、今まさにもぎ取ったばかりのトウモロコシを右手に、フリーズしていた。
随分と太くなったように見えたそのトウモロコシは、緑の外皮の上から触っても分かるほど、ゴツゴツしていた。そう感じられるということは、実が欠けている個所があるのだ。この手触りからすると、少し欠けている個所があるという可愛いものじゃなく、かなり実がない状態だと推察できた。ゆでることを考えると皮を付けたままにしたいところだが、これは確かめてみるしかない。思い切って、皮を全てはいでみる。残念ながら、私の予想通り、実がほとんどついていない個所がある。受粉に失敗したのである。
目次
虫に食べられないか、遅霜にやられないか、
種まきには時期の見極めが必要である。
私は自然栽培という無農薬無肥料で野菜を育てている。今年の5月中旬からはこの借りたばかりの土地に大慌てで畝を立て、種を蒔き、野菜を育ててきた。なぜなら、夏の収穫に合わせたかったから。真夏が旬のトウモロコシ。その栽培は早ければ3月にスタートしている。私が種を蒔いたのは、3月27日。仲間内からすると、ちょっと遅いんじゃないかと言われてしまう時期だった。なぜ、みんながその時期からの栽培を遅いと判断するかというと、トウモロコシが実る頃が丁度害虫が増え、虫対策が大変になる時期と重なってしまうからだ。だから、農業仲間は3月に育苗を始め、虫が活発になる前に出荷を目指している。私がのんびり種を蒔いたのにはもうひとつ理由がある。あまりに早く蒔くと遅霜に当たって枯れてしまうことがあると聞いたことがあるからだ。十分気温と地温が上がってから定植できる4月頃に種まきをする。
トウモロコシの複数回販売にチャレンジ!
間引き苗も活用して、本数を増やすテクニック。
しかも、今回私はトウモロコシを2回に渡って蒔いていた。1回目は、前述の3月27日。育苗ポットという植木鉢の形をした黒いビニールの容器に種を蒔き、2回目は4月16日、畝に直接種蒔きをしたのだ。トウモロコシの種の蒔き時期は4~6月と言われており、その間、前の苗が15センチくらいに育ったら次のトウモロコシを蒔くというように、少しずつ栽培時期をずらすと、秋口までトウモロコシが採れるからだ。今年はぜひ、トウモロコシを数回収穫して、複数回トウモロコシを出荷してみたい。そこで、時期をずらして種蒔きをしてみたのだ。
トウモロコシに限らず、植物の種はおおむね一か所に複数個種を蒔くと良いとされている。が、ひとつを残すために他を間引いて捨ててしまうのは、もったいない。特に、トウモロコシは他の株の花粉で受粉するタイプなので、10本以上を数列並べて栽培しないと受粉が上手くいかない。だから、一粒の種も無駄にしたくないのだ。芽が出たらなるべく早い内に1本だけ残し、その他は植え替えてしまうという荒業を用いて本数を増やしている。
トウモロコシは直根の植物なので、あまり移植(移し替えて植えること)はおススメできないと言われているのだが、芽が出た直後ならまだそんなに根も伸びておらず、移し替えてもさほど影響はない。
土をしっかり濡らし、取りたい芽を周りの土ごと移動させて新しい場所に植え替える。移し終わったら、トウモロコシの根の周りの土が新しい土と馴染むことをイメージしながら、優しくじょうろで水をかける。これは他の野菜の移植時にも使えるテクニックである。
肥料は、与えない。その代わり、トウモロコシの近くに早生の枝豆を30cm間隔で植えていく。植物が成長していくには、窒素、リン、カリウムという栄養素が必要になる。枝豆はマメ科の植物のため、空気中の窒素を土の中に固定してくれる。そのため、肥料を補う必要がないのだ。しかも、枝豆はしかるべき時期になれば収穫し、ビールのお供にすることも可能だ。一石二鳥である。
株が少し育ってきたら、根元に土を寄せる。こうすることで、トウモロコシの根元から新しい根が出て、がっしりしっかりした幹が育つ。私の印象だと、土寄せをすると数日後にググッ!と株が大きくなっている気がする。
さらに言うと、水も与えない。苗を植えたばかりの頃は、様子を見て与えることもあるのだが、基本的には草マルチで根元の乾燥を防いでいるし、夜露もある。なにより、トウモロコシの根は1m以上になると言われている。水を与えない方が、かえって土の奥深くまで水を求めて根を伸ばし、倒れにくくなるのではないかと考えている。
そして、順調に育てば、80~90日で収穫となる。目安は雌花のひげ根が伸びてから20~25日で、実が膨らみ、穂が茶色になっている。絵にかいたようなトウモロコシになっている、はずである。
トウモロコシが大きくなってきたら、
害虫への対策をしっかりしよう。
トウモロコシの最大の敵は、アワノメイガという虫である。この虫は、雄花の花粉が大好物で、まずは雄花に着き、花粉を求めて雌花に移ってくる。そこで、雄花が不要になったら早々にカットしてしまいたい。が、トウモロコシはまず雄花が花開き、遅れて雌花のひげ根が伸びてくるので、雌花が伸びてくるまでは我慢しなければならない。また、前述したように、自分の株の花粉ではなく、他の株の花粉で受粉するタイプのため、他の株を受粉させるためにこれまたカットを我慢しないとならないのだ。十分受粉したら、虫の侵入を防ぐために、雌花に排水口用ネットを被せて実が太るのを待つ。
今回、私はいつもより長く受粉期間を設けてみた。そして、ネットを被せた。受粉しやすいよう1列15本×3列という密集状態も作れたし、受粉期間もしっかりとったし、すべてにネットも被せられたし、完璧だと思っていたのである。が、写真の通りのできだった。この敗因がひとつだけある。それは、雄花で人工授粉を試みなかったことである。
これまで、トウモロコシの雄花をカットしたら、その雄花で他の雌花を撫でてから排水口ネットをかぶせていたのだが、今回は自然に受粉できる環境が作れていると過信してしまい、その作業をしなかった。雄花で撫でるだけなのに、なんでやらなかったのかな過去の私…。
90日で収穫できるトウモロコシ。言い換えれば、90日間温めてきたのに、一瞬の判断ミスでまったく売りものにならない品が誕生することになってしまった。いま、もったいないを合言葉に、一本ずつ収穫してはいるが、ことごとくひどい形のものばかりでほんとに凹む。
「何事も勉強だよ」
と慰めてくれる方もあったが、これまでの経験が生かせていない自分が本当に情けない。唯一の救いは、形は変だけど味はとても美味しかったということ。ゆでて冷凍してしまえば日持ちがするようなので、全部ゆでて冷凍し、美味しく食べて来年リベンジしようと思う。がんばろう。