ザク、ザク、ザク…。
左手で直径2センチほどの束にした雑草。その根元に向かって鎌を入れる。
ザク、ザク、ザク。
なんとなく、一度では切れなくて、3拍子のリズムで鎌を入れている自分に気づく。
一回目は、ざっくりと根元と思われる位置に向かって。2回目は、そこより、土の中に鎌先を突っ込んで。3回目は、2回目で切れなかったあたりを再度切り込む感じて…。
草刈りというのは、ただ草の根元を刈ればいいというものではなく、草の根元にある成長点を根から切り離すように切って初めて効果を発揮する。そんな基本的なことを、最近見たYouTubeで知ったばかりだ。
成長点を絶つ以前の草刈りは、わ・ざ・と・成長点を残し、伸びてきた草を刈って根元に敷いていくという手法を取っていた。だから、成長点をそぎ落とした草刈りの方が、断然、雑草が減ることが実感できる。なるほど、これが、正しい草刈りなのか。いたく感心もする。これから農業を主にやっていこうと独立宣言をしたところなのに。そんなことも知らずに農業に挑もうとしていたとは。なんという無謀…。
私は愛知県のとある場所で自然栽培を実践している。自然栽培というのは、無農薬無肥料で野菜を育てる農法のひとつで、基本的には土地は耕さない。雑草も根絶やしにするようなことはせず、ある程度の雑草を残し、相性のいい野菜同士を混ぜて植え、益虫と呼ばれる虫に害虫と呼ばれる虫を制してもらって、野菜の育ちやすい環境を整えていく。そうすることで、安心&安全な野菜を育てていく。という趣旨の農法である。
その自然栽培にもいろいろな流派のようなものがあり、雑草は全く刈らずに野菜を作る方もあるし、黒いビニール資材で畝を覆って雑草はしっかり制圧して栽培される方もある。
私の場合、ビニール資材こそ使わないが、雑草があまりにも大きくなってしまうと、野菜に日光が届かず、成育不良になってしまったり、蒸れて虫が湧いてしまったりすることもあるため、良質な関係が築けるよう、ある程度抑えていく必要はあると考えている。
ではどうやって雑草を抑えるのかというと、雑草で雑草を制するのである。
雑草というのは、成長する時に日光を必要とする。言い換えると、日光が当たらなければ、生えてくることはない。そこで黒いビニールシートをかぶせてしまえば、日光が遮られるので雑草を抑制することができるわけだ。私は、これを雑草でやる。
雑草を刈り取り、刈り取った雑草を畝の上に厚く敷いていく。草が厚くなればなるほど、畝の地表面の土に日光が届きにくくなり、雑草の生えにくい状態を作っていくことができるのだだ。これを草マルチと呼んでいるが、この草マルチには大きな弱点がある。
微生物によって分解されてしまうのである。
夏は勢いよく雑草の伸びる時期であるが、微生物も活発に動く時期でもある。草マルチは、土の中にいる微生物によって分解され、植物の栄養素へと変換されていく。夏になり、温度と湿度のバランスがいい時期になると、微生物の動きが活発になるため、雑草を分解するスピードも活発になってくる。そのため、刈草を置いても、置いても消えてなくなってしまうのである。葉っぱがシュっと細長いイネ科の植物は繊維質が多いので分解に時間がかかるのだが、葉の広い雑草はあっというまに分解されていく。枯れかかったキュウリやナスの葉もマルチに使用するが、それこそ昨日置いたものが今朝にはないなんてことはしょっちゅう起こる。
だから、雑草はいくらあってもいいのだけれど…。
今年、私の野菜たちは雑草に負けていた。雑草の成長が著しく、雑草たちによって日陰の身に追いやられてしまって、成長が妨げられてしまう子が出ていたのである。
この現象を正確に表現すると、負けたのは野菜たちではない。雑草の勢いを管理しきれなかった私、である。私がもっと小まめに雑草を刈ることができていたら、梅雨に入る前に、大量の雑草を確保して畝の上にのせておくことができていたら…。野菜が雑草に負けるなんてこともなかったはずだ。
そう思って気合を入れて雑草を刈ろうと頑張った時期もあったのだけれど、伸びてきたオクラや実のついたカボチャのツルをいくつかを勢いよくカットしてしまった。これでは、せっかく種から苗を育ててきたのに、もったいなすぎる! 草に埋もれてしまった苗たちを探しながら、丁寧に作業をする必要がある。そう実感してからは、草刈りのスピードがぐぐっと落ちてしまった。しかも、その時期の雑草は、まだ小さくて柔らかくて、草刈り鎌の刃をゆらりといなして刈れないことも多発したのである。そして、雨続きて畑に出られなかったり、突然の熱中症警戒アラート日が続いて作業ができなかったりするうちに、雑草に負ける環境が出来上がってしまったのだ。
人生には頑張っても頑張っても、どうにもならないことが起きる。押しても、押してもうまくいかない時、流れに身を任せてしまうと、思わぬ突破口が見えたりもする。
例えば、海水浴の時。浮き輪で楽しく遊んでいたのに、沖へ沖へと流れている離岸海流はまってしまうことがある。そんな時、岸に向かって全力で泳ぐより、その流れに身を任せてただ漂っていると自然に岸へと戻ることができるという話を聞いたことはないだろうか。
溺れそうでワラをも掴みたい時に、そんな流ちょうなことは言っていられないと思うものである。そこをあえて一旦立ち止まり、自分と、自分が置かれている状況を、傍観してみる。何ごとも力み過ぎはダメなのだ。
そして、私は負けを認めることにした。
この春から本格的に農家さんがやる規模の土地を刈りたばかりだったから、家庭菜園感覚の手入れではできないのは当たり前でもある。梅雨入り前までに十分な草マルチを作るための雑草を確保することもできなかったし、生えてきた雑草を効率よく刈るための畝間も確保できていなかった。そんな風に、言い訳とも負け惜しみとも言えることを、たくさん、たくさん吐き切ってみた。
できていなかったことばかりの中で、いま私にできることはなんだろう?
そして、YouTubeを流し見していた時に、効率的な草刈りの方法を知ることができたのである。
雑草を活用した土づくりを実践されているそのYouTuberさんは、根元の成長点を刈り取っていた。そうすることで、雑草を減らせると言っている。やってみるしかない。
私が、雑草の根元を刈っていっても、すべての雑草を根絶やしにするほど完璧に雑草を制することはできないだろう。それで雑草を減らしつつ、草マルチに必要分くらいの雑草を育てることもできるはずだ。ようは、バランスが取れるようになれば良いのだから。
ザク、ザク、ザク。
ザク、ザク、ザク。
こうして今日も私は、3拍子のリズムで雑草を刈り取り、刈り取った雑草を畝の上に広げていく。少しでも、雑草を制することが出来たらいいなと、思いながら。
ワルツを踊るような気分で。鼻歌まで歌って。