ナニコレ? すごーい!
感想は、まさにこの一言に尽きる場所だった。
La Collina(ラ コリーナ)近江八幡。
城めぐりが好きな私とパートナー。今回は、彦根城に行ってみようかと阪神高速をぶっ飛ばしていたのだが、
「ここ、行ってみたいんだよね。」
というパートナーの一言を受け、クラブハリエの新しい施設『La Collina(ラ コリーナ)近江八幡』を行程に加えることになったのだ。
クラブハリエと言えば、誰もが一度は食べたことがあるだろう、あのバームクーヘンでお馴染みのお店である。贈答用にいただいたことがある方なら、チョコレートを溶かしこんだような茶褐色のマーブル模様が描かれた真四角な箱や格子柄の箱を見たことがあることだろう。※我が家にはその箱が数個あり、丈夫で上品なので小物入れとして活用している。
私が初めて入ったのは、近江八幡日牟禮店だった。工場が売り場になったというコンセプトで作られた店内は、正面に中が見えるオーブンがあり、鉄の棒に巻き付いたバムクーヘンがゆっくりと回転しながら焼かれているのを目にすることができる。そのキラキラとした大きなオーブンの前には、色とりどりの洋菓子が並ぶショーケースがあり、キビキビと働くスタッフさんたちがいた。その洗練された動きを見ているだけでも、いい買い物をしたなと思わせられるお店作りがなされている。
そのたねやグループが2015年に作った、La Collina(ラ コリーナ)近江八幡。
たねやクラブハリエのフラッグシップ店として誕生したこの施設のコンセプトは、「自然に学ぶ」。お菓子の素材は自然の恵みであるという思いと、SDGsの観点から、地元の豊かな自然とお菓子作りの叡智や技を、50年、100年と引き継いでいきたいという思いが込められているらしい。
訪れたのは、海の日を含む三連休の中日。雨のぱらつくあいにくの天気にも関わらず、駐車場は入口から数十メートルに渡って車が連なっていた。迷いつつ、建物に少しでも近い場所へと車を進め、退場していく車の後へ続いて停車する。
駐車場は、メインの建屋に向かって放射状に延びているため、どこに停めても遠めに建物が見える。と言っても、そこからだと八幡山の緑色に溶け込んでしまっていて、いくつかの山が連なっているようにしか見えないのだけれど…。
ツル性の植物が作るアーチを抜けると、草屋根がより鮮明に見えてきた。草屋根は文字通り、屋根の前面に草が生えている。緑色の合掌造りのようなこの建物は、ぽつぽつと窓の部分だけが草がないため、いくつものつぶらな瞳でこちらを見ている謎の生命体のように見えなくもない。手前に広がる草むらの通路は迷路のように曲がりくねっているので、生命体に気づかれないように、静かに草むらをかき分けて、歩いていくようだった。これがもし、子どもだったら、間違いなく迷路ごっこで駆け回っていたに違いない。
草屋根にたどり着く。壁が漆喰で塗られているためか、ひんやりとして気持ちがいい。
中には、たねやとクラブハリエのショップがあり、季節商品だけでなくフルラインナップが購入できるという。天井を見上げると、黒い粒々が。これは、従業員がみんなで炭を砕き、ひとつずつ貼っていったものだという。大小さまざまな粒々になっているところが、一人ひとりの個性を表しているようである。
さらに奥へと進んでいくと、メインショップから優しく腕を伸ばしたように緑の屋根の回廊が続いている。中央には、広大な円形の敷地があり、水田が広がっていた。風に揺れる青々とした稲穂の波の間に、岩のオブジェのようなものがすっくと建ち、扉のついた大きな石があり…。良く見ると、里芋やショウガを栽培する畑になっている個所もある。雑草が生えたままになっているのは、おそらく、私の目指している自然栽培の手法を取っているからなのだろう。
懐かしいようで神秘的でもある円舞場。何かアニメのテーマパークだと言われてもおかしくないような不思議な空間だ。もし、地球が滅び、次の生命体がここを発掘することがあったとしたら、
「何かの儀式に使われていた聖なる場所だったのではないか。」
と推察するんじゃないかと思うような古代遺跡感のある場所だ。言葉が見つからなくて、ぼーっとその場にたたずみたくなる。
もちろん、
敷地内にあるカステラショップでは、お馴染みの大きなオーブンでクルクル回るバームクーヘンとキビキビ働くスタッフの方々と、お買い物に並ぶ人、カフェに並ぶ人でごった返している。クラブハリエの全店舗の混雑をぎっしり集めたかのような賑わいだ。
里芋&ショウガ畑の横あたりでは、地元のお肉屋さんやお菓子屋さんなどの味を楽しむことができるイベントも開催されていた。ワクワクした雰囲気にのせられて、1,500円の近江牛のハンバーガーと1,800円のステーキのサンドウィッチを試しに買ってしまう。もちろん、それは既に買う前から美味しいに決まっていた満足感であった。
賑わいが、しみじみと緑に溶け込んでいる世界。この施設は、いったい何なんだろう?
ふと、祭りというワードが思い浮かぶ。祭りと言っても、田舎の夏祭りである。
見慣れた薄暗い神社の境内が、その日だけ色とりどりの雪洞で彩られ、焼きトウモロコシや玉せん、水鉄砲、金魚すくいなどの屋台が立ち並ぶ。地元を離れていた友人もこの日に合わせて戻ってきて、浴衣を着て集う。
お囃子にはどこか懐かしい響きがあり、舞に翻る扇からは神々への祈りを感じる。
屋台には流行りの韓国フードが並んでいたり、キャラクターのお面が新しくなっていたりするのに、いつまでも変わらず、懐かしい雰囲気に満たされている、あの田舎の夏祭りの日である。
日常とは違う、ハレの日を意味しているのだろうかと勘繰りたくなる。
普遍的な懐かしさと、店づくりの斬新さを、この近江八幡の豊かな自然の中に融合させてしまえるなんて。その情景を、描き切ってしまえなんて。ただの和菓子屋さん、ただのバームクーヘン屋さんには留まらない。企業の奥深さを感じる。
この滋賀県近江八幡市あたりは、近江商人の本拠地である。その近江商人には、こんな独自の経営哲学があった。
「売り手良し、買い手良し、世間良し=三方良し」
これは、売り手が健全であることはもちろんだが、買い手も満足でき、商売を通じて地域社会に貢献できることが大切であるという教えなのだという。
そんな三方良しの精神が脈々と受け継がれてきているこの地にある企業だからこその、La Collina(ラ コリーナ)近江八幡なのだろう。
過去から未来へ続いていく、大きな流れを感じる。
スケールの大きすぎる演舞場である。
〒523-8533
滋賀県近江八幡市北之庄町615-1
営業時間/9:00~18:00
TEL.0748-33-6666
駐車場750台