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思い出のミカン畑は、見るも無残な状況に。
一念発起して開墾に乗り出す。
ここには、かつてミカン畑が広がっていた。
祖父が元気な頃は、11月末になると家族で出かけ、好きなだけミカンを採り、段ボール箱に詰め込んでお歳暮代わりに送っていた。その数が何十箱にもなったから、「出荷作業をしにく」なんて言っていたけれど、遊びの域を脱していなかったのだなと思う。
祖父が亡くなった後は、ご近所の方に世話をお願いし、相変わらず年末に一度だけミカンをもらいに行っていた。そのご近所の方も高齢となり、ミカンの世話ができないということになってから10年ほどが経った頃、私は自然栽培にはまっていた。農薬や化学肥料を使わず、雑草を生かし、野菜や果樹を育てていく。自然栽培の知識や野菜の育てたくて通っていた講座の講師に、
「自然栽培でミカンならカンタンにできますよ。」
そう言われたと記憶している。そうなんだ、カンタンなんだと思った時、祖父のミカン畑のことが思い浮かんだ。カンタンなら、やれるのかもしれない…。
こうして始まったのが、『牧之原の耕作放棄地 果樹園化プロジェクト』である。
2023年4月末、初めて父と二人で現地を見に行った時には、驚いた。敷地はジャングルになっていたのである。昔出入りしていた防風林の切れ間は伸びすぎた枝でふさがれている。なんとか隙間を見つけて敷地内に足を踏み入れたものの、背丈よりも大きな雑草がぎっしりとはびこってしまっていた。父の「去年はまだあった」という記憶を頼りに、草を踏み倒しながら進み、ようやく4本だけ、ミカンの木を助け出すことができた。それも、半分立ち枯れており、あと数か月遅ければ、いばらのツルに飲み込まれて朽ちていたんだろうと思う。
以降、父と、私と、私のパートナーで、代わる代わる出かけては触っている。目標は、「ここを自然栽培の果樹園にする。」である。
雑草によって雑草を制する草マルチに挑戦!
今回は梅雨明けに一度、草刈りをしておいた方がいいだろうということで、私とパートナーとででかけてみた。それだけではない。実は、この前から試みていたことがあり、目的通りの効果を発揮しているのかを確認したかったのだ。
私は自然栽培の手法を使って、この場所を果樹園にしていきたいと考えている。その手法のひとつとして、草マルチというものを用いている。草マルチというのは、刈り取った雑草を敷地の上に敷き、土から蒸発する水分や土の表面温度が高くなりすぎるのを抑えたり、雑草が生えるのを抑制して野菜が育ちやすい環境を作ったり、微生物に分解してもらうことで養分としても活用したりするもの。そのためには、地表面が見えなくなるほど、刈り取った雑草を敷き詰める必要があるのだが、夏になると微生物の働きも活発になるため圧倒的に雑草が足りなくなる。そこで、お助けムギという麦を蒔くことにした。
お助けムギは背丈が2mほどになるので、それを刈り取れば大量の雑草として草マルチに活用できる。背丈が伸びるものは、根も同じく良く伸びる。長く伸びた根は土壌を耕す効果があるだけでなく、枯れてそのまま土に残れば、やがて水の通り道となり、排水性を高めることもできる。さらに、お助けムギは春に蒔き、夏に枯れて敷地の全面を覆うことができる。つまり、梅雨明けに草刈りをしなくても自然にクッタリと枯れて、真夏に一斉に生えてくる雑草を抑え、草刈り回数を減らす効果も期待できるのだ。
また、麦類は土壌中の余分な養分や毒素のようなものを吸い取る力もある。逆に言えば、養分がなくなってしまうので、それを補う必要もある。植物の成長には、窒素、リン、カリウムという三大要素が欠かせない。慣行農法なら速攻肥料で補ってしまうことだろうが、自然栽培ではそうはいかない。どうするかというと、マメ科の植物を投入するのだ。
セスバニアとクロタラリアって、なに?
マメ科の植物というのは根にコブのようなものがあり、中には根粒菌という菌が住んでいる。この菌は空気中に含まれる窒素を土の中に固定する力がある。そのため、土壌に不足した窒素を補うことができるのだ。
マメ科の代表選手といえば、枝まめ。私はトウモロコシを栽培する時も根元に30cm感覚で枝まめを投入する。落花生、インゲン豆、十六ささげなどもマメ科の植物だし、カラスノエンドウという雑草もマメ科の植物である。これが生えている場所は、しめしめ土に栄養分が補給されているな、と思ったりもする。
牧之原の開墾地で、このマメ科による窒素固定の仕組みを利用するため、セスバニアとクロタラリアという2つの植物を投入することにした。
この聞きなれないマメ科の子たち、実は背丈が2mくらいになる大型の植物である。その分、根も地下にぐんぐん伸びる。つまり、前述した麦のように根で土壌を深く耕しながら、窒素も固定できてしまうという一石二鳥の植物なのだ。もう少し、詳細を説明しよう。
- セスバニア:パッケージには田助という名前が書いてあった。こちらは湿気の多い土地での栽培に優れており、水田から畑に変えたいような場合に良く使われるらしい。田には水が抜けない硬盤層というものが形成されているものだが、この固い土地を破壊し、排水性を高めてくれるのだ。
- クロタラリア:酸性の土、やせた土でも良く育つ。排水性の悪い土地での栽培は向かない。真夏に黄色の花をつけるため、景観用としても利用されている。センチュウという細菌の抑制にも効果があるという。
ひとつ気を付けたいのが、自生化してしまうと取り除くのが難しくなってしまうということ。6月の梅雨時に植え、10月頃、花が咲く前に刈り取ってしまおうと固く心に誓った。
雑草マルチは一筋縄では行かないもの。
ひたすら重ねていくことが大切。
当日、9時ごろに牧之原に到着。日差しがキツイ。あたり一面、緑色である。雑草が生き生きと風に揺れている。う~ん、残念。
私の予想としては、お助けムギが枯れて敷地全面を覆い、小麦色の波が風に揺れているはずだったからだ。実は、お助けムギの勢いが強く、せっかく植えた果樹の苗が青々としたムギに埋もれてしまった箇所があり、一度、草刈りを実施してしまったのだ。その分、丈があまり伸びなかったのも敗因だったかもしれない。
そして、そろそろ芽吹いてある程度の背丈に育っているはずの、セスバニアとクロタラリアは、見当たらなかった。
がっくり肩を落としながら、草刈りを開始する。しゃがむと、枯れたと思われるお助けムギが良く見えた。ないわけではないが、敷地全面を覆うほどの量はなかったということだろう。
植えたはずのショウガやサトイモを探しながら、さらに雑草を刈っていく。土に生えている雑草を見ると土のステージが分かるのだが、セイタカアワダチソウ、エノコログサ、ヨモギなど…、相変わらずあまりいい状態とは言えない雑草が生えている。そして、ついに発見した。セスバニアとクロタラリアが生えている個所があったのである。
そこは、梅雨入りを前にジャガイモを収穫した畝の間だった。そこは石がゴロゴロしていて耕すのも厳しかったので、あわよくばと思い、種を蒔いておいたから間違いない。
正確に言うと、実際にセスバニアやクロタラリアを見たことがないので、そこに生えていた草がセスバニアなのか、クロタラリアなのかは分からない。ただ、ここは他の場所とは違って水が溜まりやすく、他の雑草はまったく生えていなかった。湿気に強いセスバニアが根付いたと考えるのが妥当だろう。そう考えると、他の場所はクロタラリアが伸びてもいいはずなのだが、マメ科っぽい植物は全く見えなかった。もしかしたら、他の雑草の勢いに負けてしまって伸びることができなかったのかもしれない。
今回の草刈りで、地面に光が届きやすくなったはずだ。もしかしたら、クロタラリアの生えてきやすい環境になり、発芽が始まる種もあるかもしれない。これがダメなら秋にまた別のマメ科の種を蒔いてみようと思う。こうして、マメ科、ムギ科を繰り返し蒔いては刈り取ることで、少しずつ、背丈の低い雑草の生える豊かなステージへと変化させてみたいと思っている。