ズバリ、蒔かぬ種は生えぬ! さぁ、ばらまくよ。

自然栽培

デイサービスで働いていた時、あるおばあさんがしょっちゅう口にしていた言葉である。そのおばあさん、畑仕事が得意だったので、

「一つ目のナスがなったら、親指くらいの大きさの内にとって、家の軒下につるすといい。」なんて言う話があったので、これもまた畑つながりの話なのかと耳をすませていたのだが、

「孫が子どもを連れて遊びに来るだろ? そん時に、こづかいをちーとずつ渡すんだ。そうすると、子らは喜んでまた遊びに来てくれてるだろ。蒔かぬ種は生えぬってことよ。」

孫をこづかいで釣るのかと…。ちょっと首をかしげたくなる「蒔かぬ種は生えぬ」の用法だった。が、農業をやり始めてから強く思う。

「蒔かぬ種は生えぬ。」


種を蒔かないことには、何も始まらないのだ。

自然栽培だから、種は固定種を使う。

無農薬無肥料で野菜を育てる自然栽培にはまってから、種は固定種を使い、収穫後には種を採ってまた翌年使用している。固定種というのは、形質が固定化されており、種を採って翌年に蒔いても同じ形質のものができるというものである。ただ、収穫時期がずれたり、野菜本来の独特の味わいが残っていたりして、風味が強かったりもする。これに対し、F1種という種がある。
F1種は、形質の異なる品種と品種を掛け合わせ、望む形質が出るよう調整した種のこと。例えば、「大きく育つ」という性質と「病害虫に強い」という性質が出るようかけ合わせ、「大きく育って病害虫にも強い」という種に仕上げてあったりする。乱暴な言い方をすれば、その種を蒔けばパッケージどおりの野菜ができるが、そのF1種とF1種が掛け合わさった次世代になると同じ形質の野菜ができるとは限らない。というものである。

F1種は発芽や生育が揃いやすいため流通に乗せやすいというメリットもあるが、放射線を使って突然変異を起こさせて好ましい性質を引き出したり、雄性不稔と言って花粉が作れない調整して人の手によって受粉させたりしており、安全性を懸念する声もある。

私が固定種を使うのは、種がその土地の土壌条件、作り手の栽培方法に合わせて育っていってくれるからである。自然栽培を実践している我が家では、真夏の雨がない時期以外はほとんど水やりをしていない。肥料は投入せず、雑草を敷き詰めるだけ。害虫対策も、手で取る程度にしか実施しない。野菜たちは、その条件下で育ち、種を残していく。残された種たちは、

「水がすくない、肥料はない、病害虫にも耐えなきゃならない」

という条件下に合うよう変化していく。そして、その土地で育ちやすい種として生まれ変わっていくのだ。

雨が降り続く日の前日を狙って、種まきをする。

さて、種の蒔き方にも効率のいい蒔き方がある。まず大切なのは、以下の3つだ。

種の発芽には、温度と光、水が強く影響する。

  • 温度

例えば、ニンジンの場合を参考に、解説したいと思う。

野菜の名前発芽適温成育適温好光性/嫌光性
ニンジン15~20℃15~20℃好光性
キュウリ25~30℃20~25℃嫌光性
ナス20~25℃20~30℃好光性
カブ15~25℃18~21℃好光性
発芽適温と成育適温、光の関係 一例

ニンジンの場合、種まきに適した温度は15~20℃。3~4月、7~8月と年に2回蒔き時があると言われている。生育に適した温度も15~20℃。近年は猛暑になりがちなので、春に蒔いた種は夏に生育が止まってしまうので、春に種を蒔く場合は、少し早めに種を蒔く必要があるわけだ。

また、種の生育には光も関係してくる。ニンジンは好光性と言い、光を感じられる深さで蒔かないと発芽しない。地表面を削り、1~2㎝感覚で種を蒔いたら、薄~く土をかぶせる程度の方が発芽率が良い。が、ここで気を付けなければならないのが、水分である。

ニンジンは十分に水に当たらないと発芽しない。種まきしてから芽が出るまでの間は地表面が乾燥しないよう、しっかりと水を撒いて乾燥を防がなければならないのだ。

雨が数日続く前の日を狙って、
種まきすると、ラクちん。

土を浅く被せたら、地表が乾きやすくなってしまう。乾かないよう水をやるのも大変。そこで利用しているのが、もみ殻と雨である。

ニンジンを蒔き、種を蒔いたら、土の表面が見えなくなる程度の厚さでもみ殻を蒔く。こうすると、水分が蒸発しにくく、またもみ殻のカップ状の部分に水が溜まって、保水力もある。そこに雨が降れば、地表面のしっとり感を十分維持することができる。その間、水をやる手間もない。

10日ほどすると、小さなニンジンの芽がでてくるはずだ。

自然の力を活用して、
野菜の芽吹きを促そう。

さらに、自然の力を活用するなら、種まきは満月の5日ほど前から満月までに実施すると良いと言われている。それは、種が芽よりも根が先に伸びるため、根の成長を促進する満月の方が、種まきに蒔いているためである。では、なぜ、満月の方が種まきに蒔いているのか。それは月の引力が大きく影響している。

満月の時は、植物の中の水分が上へ上へと上昇する。新月の時は、逆に根っこの方へと引っ張られていく。

つまり、満月までに種を蒔いておけば、発芽に必要な水分が種に蓄積されて発芽しやすくなり、発芽して以降は、新月に向かって月の引力に引っ張られながら根の先端へ、先端へと水分が引っ張られて根張りが良くなるわけだ。

まとめ

自然栽培では、天候や天体の動きを利用して、無肥料無農薬で野菜を育てていくことになる。その自然のリズムに身を任せることで、自分自身も自然に調和し、気を整えていくことにもなると思う。

人も自然の一部として、そこに在るために。

まずは、第一歩となる種まきから始めよう。蒔かぬ種は生えぬ。小さな芽吹きがいつか実りをもたらしてくれるまで…。

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